伊吹有喜さんの「BAR追分」と「オムライス日和」を読了しました。
ヒューマンドラマ小説、および食いしん坊小説です。
とにかく読みやすい。複数人での会話文が楽しい。酒場に行きたくなる、あるいは営みたくなる小説。
○
拙者は好きな作家が2人います。
一人目は森見登美彦さん。めっちゃオモロイ。
もう一人は伊吹有喜さんです。
伊吹作品が好きな理由は、
・人が死なない
・さほど悪い人がでてこない
・それでも読み進められる
この3つにつきます。
色んな小説を読むと、最後の方で主人公本人や大事な人が死んで、読者の心を動かそうとする作品って多すぎじゃないですか。「またか」ってなりますよね。ネタバレになるので語れないし、モヤモヤします。
冒頭から人が死ぬ作品も多すぎて、「人が死んだら気になるに決まってるやろ!」と拙者は眉間にシワを寄せます。
その点、伊吹さんはるろうに剣心みたく殺さずの誓いがあるようで、登場人物が死にません。作中の前に亡くなった人は語られますが、作中では死なないのです。
いやホンマに、後半に大事な人が死んだりする作品は「下手くそが!」って叫びたくなります。
憎々しい敵役も出てこないんですよ。敵役に見えても主人公の意図には合わないだけで実は事情があるのです。
こういう筋書きをドラマチックにするのってめっちゃ難しいと思うのですが、それをやってのけるのが伊吹有喜さんなのですよ。
なぜ読み進められるのか不思議です。
あともう一つ好きな点は、中年の世界を描くところ。
いつまでも若者が活躍する小説を読んでても、大人の貫禄がつきませんからね。
本作はというと、20代後半の男性が主役として書かれる章が多いのですが、三人称多主人公のオムニバスの物語。
BAR追分という、昭和っぽい横丁に存在し、夜はBAR、昼はCafeというお店とその周辺が舞台です。
横丁の商店組合の管理人に抜擢される男や、昼のCafeで料理を作る女、夜のBARのアルバイト美男子、商店の皆々、お客の皆々で物語が進みます。
すごく自由な小説です。連作短編集に近い。
「うまいもん食って、うまいもん飲めたらそれで幸せじゃねぇか」というのがメインテーマのようで、美味しそうな料理が出たり、それについて登場人物が語る描写が多い。
深夜食堂みたいですね。
そのあたり、読者も一緒に会話しているようなほっこり感が生まれて、酒場で隣り合わせた人とたまたま喋ったみたいな感覚になります。
拙者は昔、酒場を営んでいたことがあって、いや、本格的にではなく真似事みたいな、土曜日だけのサロンのような酒場をやってました。
それはやめてしまったのですけど、そういう世界もやっぱりいいな、という思いが湧いてきましたね。
そう、作中で商売をする物語に拙者は弱くて、自分でも何かやりたくなってしまう。影響を受けすぎてしまうのですよ。
作中のBAR追分はサービス過剰すぎないか? ワンオペでそこまでできるか? と心配になってしまうのですが、手作りの魅力に溢れててめっちゃいいです。旨そう。クリームシチュー、フレッシュトマトのパスタ、、、
ああ、お腹が空いてきた。
ちなみにこのシリーズはあと1作あって、好きな作家さんを追う楽しみがまだ残っておる。
なんとなくホクホク。