見守ってくれる人の存在「幸福な食卓by瀬尾まいこ」


瀬尾まいこさんの幸福な食卓を読了しました。
主人公に合わせた中高生っぽい文体と、周りを固めるちょっと変わったキャラに興味が引かれます。
自分を見守ってくれる人を少しづつ理解するハートフルな物語。
キャラクターの意外性が明らかになっていき面白みがある。恋の描き方が地味で珍しい。
しかし、ストーリーはちょっとズルい。

私は独り身ですから「幸福な食卓」というタイトルには逆に不気味さを感じてしまいます。家族で決まった時間にご飯を食べることに憧れなくなり、むしろ窮屈さを感じます。
私の心は壊れているのでしょうか?
ゾワッとさせてくれると思いきや、日常感のある作品だった。

本作は女子中高生の一人称でギリギリ壊れてない家族を描く作品です。
冒頭で、

「父さんは今日で父さんをやめようと思う」

と始まるように、なんとなく暗雲の漂う家族なのです。
過去に何があったのか?

文章に上手さはなく女子中高生らしい文体だと感じる。素直だけどたまに毒っぽくくすりと笑える感じ。そこまで頭の中がうるさくはなく会話文の比率は高い。
周りのキャラが変わってて面白い。何をしでかすか興味をそそられます。
恋愛の描き方もじわじわしてて不思議。
4章で構成されていて、独立した話として成立している反面、長編としての盛り上がりには欠けている。

3章目が面白いです。タイトルは「救世主」学校での役割に悩む話。こういう小さい話でストーリーの盛り上がりを作る話を好みます。

2003年に書かれた作品で、およそ20年前。コミック化もされ、映画化もされたようです。吉川英治文学新人賞受賞作。

ネタバレなしで書けるのはここまでですかね。以下はネタバレありののり弁文章。選択範囲にすると読めます。

ストーリーはズルいなと思います。
父が自殺未遂をして、その理由が明かされてなくて、最後にスッキリ解決するのかと思いきや、それはさほど大事じゃない感じで流されている。完璧さを求めて歪になったようだけど、ハッキリした理由が分からない。
ですから、読後感が悪いです。

また、大事な人が死ぬ、その喪失感を描くのですが、ストーリーとしてはありがちでガッカリしました。人が死ぬのはもうええねん、ズルいな、と思います。

兄のことを「直ちゃん」と呼ぶ感じ、最初は性別も関係も分からずに意外性がありました。上手い。ちょっとした叙述トリックだろうか。

プロットとか考えずに思いついたまま書いた感じで展開が読めなくて興味が持てました。でもそのままラストには行けないですよね。

心の壊れた私には「幸福な食卓」という言葉が窮屈に感じますけど、本当の幸せってのは、食卓にこそあるべきですよね。
みんなが同じ話題で笑いあえるのが、幸せな瞬間なのだと私は知っていますよ。
それが身近にないからこそ、なんとなく拒否したくなるのかもしれませんね。


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