親切を鍛えよう「WONDER(byR.J.Palacio)」


R.J.パラシオさんの「ワンダー」を読了しました。
ティーン向けのイイ話系小説。
1人称多視点の章立てが好きでした。キャラの文体分けが上手い。
少年が傷つきつつも乗り越えてゆく描写に涙腺が緩む。ポロポロ。
親切さの価値を取り戻したくなる作品。

ぶらっと図書館に行って、ティーン向けのコーナーがあって、並んでいる本を見るとハイファンタジーとか、森見登美彦作品などが並んでいる。「ティーン向けの本、好きだな」と思った。
拙者はサスペンスやホラー、バイオレンスが好きじゃないので、若者向けの蔵書と相性が良いようだ。
なんか知ってるな、と手に取ったのが「WONDER」で、ページをめくってみると、一人称多視点の章立てが面白そう。読むことにした。

主人公のオーガストを中心に、その姉や友達、計6人(かな?)の視点とそれぞれの書き言葉で物語が進みます。
拙者はこういう一人称多視点の作品が好きで、文体の変化でキャラを書き分ける文章にトキメキを覚える。
たとえばオーガストの文体はやや幼くて読みづらい。一方ジャスティンの文体は高校生なのでキレがある。
で、この構成のお陰で、誤解が生まれやすい人間の性がありありと分かります。分かりあえず、すれ違う。切ない。
だが読者としては、この人はああいう態度をとってこう受け取られたけど、実は……、みたいなことがどんどん分かって気持ち良いです。読み進めたくなります。面白かったです。

ストーリーはオーガストが学校に通いだす話。ですが、外見が人とはあまりにも違うのです。
自分の顔がバケモノみたいだったら学校に行けますか?
小学生なんて自分勝手で残酷で、それを主人公もよく分かっているのです。
それでも、一歩づつ前へ。

他のキャラクターたちも、目には見えないコンプレックスを抱えたり、負い目があったりと、それぞれがそれぞれの事情を抱えて前へと進んでいるのです。

拙者は少年時代を思い出しながら読みました。
加害したこともあるだろうし、嫌な目にあったこともある。
保育園の時など、足に障害があった同級生を不格好に歩くヤツだと思っていたし、彼の赤白帽のゴム紐を引っ張って、放して、首にペチンとして、そして逃げたら追いつけないと分かっていて、ヘラヘラしてた。
小学校の時は知的障害のある人に対して友人数名とちょっかいを出して、相手が怒り出してトラブルになって、先生に事情を聞かれると「何もしてないのに相手が怒り出した」と言い張って、それ以上の詰問はなかった。相手は何があったかちゃんと説明できなかっただろうな。とても卑怯だったし、ちゃんと怒られておけば良かったと後悔している。
中学の時も誰かをバイキン扱いするのは普通だったし、それに迎合してた。その番が自分に回ってきた日も数日はあった気がする。

優しさや思いやりは学んでいくものなのかもな。
技術かもしれない。
じゃあまだきっと、ぜんぜん足りないや。

他人が思ってることって分からなくて、すれ違ってしまう。
言葉にできることもあるし、できないこともある。さらに大人の世界は本音と建前がある。
だから色々難しくて、人とあまり関わらないようにしよう、と、最近はそういう傾向。
本作は「親切」について、押し付けがましいとこもあるんです。大人の世界は「効率」や「利益」が大事だったりするし……。
だけど本作を読んで、架空の物語だと思いつつも、友情とか愛とか利害のない親切とか、自分の善性を信じてみたい気持ちになった。

そういえばこないだ、盆踊りに行った帰りのこと。自転車の調子が悪くて道端で整備していたのです。
すると、明かりをかざしてくれる人が近づいてきた。
「大丈夫ですか?」と。
それが若い女性で、スマホのライトで照らしてくれたんですよ。
まさかの親切を受けた。
「ちょっと調子が悪いだけです」
と、拙者は答えて、たいしたエピソードにはならないのですが、あの親切な人の幸せを全力で祈りました。
しかし、祈るだけじゃダメだよな。
拙者も親切に生きねばな。
人助けができる時はしたらいいし、笑顔で人と接することや軽快な挨拶をすること。それだけでもいい。

とまぁ、こんな風に本作はポロポロと涙が出るとともに、きれいな心も出てくるかもしれませんよ。
そうだそうだ、周りの人を気持ちよくして自分も気持ちよくなる。
人間の基本だな。
作品を作る前にやることがあるかもな。
技術を磨くように、優しさを磨く。
そんな決意でございます。


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