細密描写で共感度が高い「鍵のない夢を見るby辻村深月」


辻村深月さんの「鍵のない夢を見る」を読了しました。
社会人女性1人称で語られる5篇の短編集。何らかの犯罪が起こります。
描写が細密で、女性が読むと共感度が高いと思う。
「芹葉大学の夢と殺人」に夢中になった。憧れと蔑み、好きなのに物足りない、心理のジェットコースターが凄かった。
救われないのに、人間が愛おしくなる。不思議な読後感。
第147回直木賞受賞作。

私は小説を読まずに生きてきましたので、有名作家さんの有名作をひと通り読もうとしております。
よく聞く名前です、辻村深月さん。
今まさに、働き盛りの作家さんでしょうか。本屋大賞の常連。

「鍵のない夢を見る」は5篇の短編集です。
共通しているのは社会人女性の1人称で語られること。
また、全編を通して描写が細密。「実体験ですか?」と思うほどです。
文体はストレートで比喩も少なく面白みは感じないけど、煙に巻かれることがなく、感情を全部書き切るようなスタイル。反ポエミー。
犯罪が起こるんですけど、事件よりも自分の心理の動きのほうが大きいみたいで、事件は大したことないような気になります。他者が事件をやらかして、その事件のせいで影響受けるじゃなくて、別の気持ち。なんだか新しい。
時系列をいじってミステリーを生んでいるけど、犯人は誰だとか、動機は何だとか、それって大したことじゃないです、みたいな。
物語の面白さとしては、時系列を操る巧みさにあるかもしれませんね。

4篇目の「芹葉大学の夢と殺人」がとても読み応えがあります。
新聞記事から始まって、よく知る教授が殺されたことを知る。
もしかして、あの人がやったのか? 語り手とその人との関係は?
こんな風にミステリーとして始まるのですが、そこからは憧れや蔑みや、恋愛感情と自分の夢、生活、変化などなど、その都度の心理描写が細密で引き込まれました。
救われない話だというのは冒頭で分かるんですが、それでも主人公への共感や、人間の持つ複雑さを感じて、人を愛したくなるような気にさせてくれます。
人は不完全で、どうしょうもなくて、それだから愛おしい、みたいな。

男性の私でも共感するくらいですから、女性ならなおのことグッとくるんだと思います。
細密描写のおかげで、人間への理解が深まったような気になっています。
色んな人が生きている社会で、できるだけ他者を理解し、優しくしたいなぁと思わせるパワーがありました。

タイトルもカッコいいですよね。
「鍵のない夢を見る」
意味わからんけど、どうしょうもない感じ。

いい歳こいて夢見てるのは、私なんだよな。


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