ファンタジー冒険譚、好きだった「鹿の王by上橋菜穂子」


上橋菜穂子さんの「鹿の王」を読了しました。
正統ファンタジー小説、壮大です。ジブリ映画のもののけ姫に似てますね。
でも意外に、魔法とか神とかを否定して医術をメインに据える。
そこにリアリティがあって歴史小説ぽくもあり、学びが多い。

私は昔からファンタジーの物語を摂取して生きてきました。漫画、ドラクエ、ジブリアニメ、ずっとずっと昔はネバーエンディング・ストーリーも好きだった。
このたび、「鹿の王」がアニメ映画になるとのことで、原作小説を読むなら今だ! と、ミーハーな動機で読みました。
2022年2月4日から公開されています。

読み始めると、やっぱり私はファンタジー好きだな。ジブリアニメっぽいな。移動範囲が広くて冒険譚はすごいな。と楽しくなりました。
主人公のヴァンは中年男性なのですが、カッコええイケオジ。ファンタジーは若者が主人公になりがちですけど、私には共感ポイントの多くて最高でした。
ヴァンが奴隷になっていて、しかも狼のような動物に襲われ、周りは死者だらけ、というところから始まる。どん底からのスタート、いいね!
また、ホッサルという医術を修める若者も第二の主人公。彼の視点では医術や政治の世界が描かれて、多重レイヤーで物語を味わえます。
序盤はエキサイティングで、色んな人物が登場し水滸伝みたい。早く続きが読みたい!! と犬がハァハァするような反応を示しました。
とにかく場所を移動して、一緒に旅をするような感覚。その都度新たな出会いがあって楽しい。アクション、バトル、入浴シーン、少年マンガか!

中盤からは政治や陰謀が関わってきて難しくなります。説明も多くなる。あまりファンタジーっぽくなくなる。医術によってどんどんリアリティを補強するするのです。

ヴァンは大きめの鹿に乗ります(アシタカに似ている)、冒険ファンタジーには乗り物が欠かせないようだな。ハリーポッターも色んなものに乗っていた。

本作を読んで思ったのは、文章がシンプルだということ。比喩表現とか心理描写は少なめ。これは色んな場所に移動することと、バトルが多いからだと思います。ですから、作家に求められる文章力というのは、ジャンルによるのだと学んだ。文章を上手く書こうとするよりも、どんな物語を書きたいかを見極めるのが先だと思った。

以下ネタバレあり。選択範囲にすると読めます。

終盤はあまり緊迫感が無い。中盤のほうが緊迫感があった。
終盤は世の中が混乱するのですが、主人公やその愛する人逹のピンチが少ないように思う。
最後は自己犠牲の美しさ、のようなもので終わる。カッコいいけど。ヴァンとホッサルがどうしようもなくピンチになって、最後にホッと解決という展開が望ましいのではないか。あるいはヴァンとホッサル泣く泣く対立するような展開ならば、手に汗握ったかもなぁと思います。

とにかく壮大な物語でスゴイです。
異世界を描くと、序盤の世界観が難しくて入り込めない時がありますが、本作はとても上手いです。
物語の中だけの地名、文化、民族、言葉を生み出し、一つの世界を作り上げる芸術は、作家ならではですね。
舞台としては中国と中東の境目あたりのイメージを浮かべましたし、異民族を統治するのも中国っぽいと思いました。
と、なにかの下敷きがあるにせよ、一人の頭の中で作り上げられる構想に脱帽です。
作家ってカッコいいなぁと思いますね。
世界をまるごと創造できるなんて、いいなぁ。



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